本日はビジネス書の紹介。
・作品名 『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』
・作者 鈴木 博毅
「失敗の本質」は、各々の戦いごとにまとめられていましたが、これは逆に、そのポイントごとにそれぞれの戦闘が整理されています。さらにこれを現代日本の企業の失敗について対比して示されていて、日本人は基本的には変わっていないということをよく実感させてくれます。
「失敗の本質」で取り上げられている戦いは
・ノモンハン事件
・ミッドウエー海戦
・ガダルカナル作戦
・インパール作戦
・サイパン島玉砕
・レイテ海戦
・沖縄戦
ですが、それぞれの戦いにおいて、日本軍のとった行動と敵軍(主に米軍)のとった行動の違いを分析して、日本軍が敗戦に至った理由と教訓が導き出されます。
日本人は「技を昇華させる」ことが得意であり、ゼロ戦の操縦技術、銃剣突撃、砲雷撃戦の命中精度などあらゆる技術面で優れていました。これが戦争初期において戦いを有利に展開して、南アジアの広範囲を制圧できた理由になりました。
これに対して米軍は、弾が当たっても簡単には爆発しない機体の開発、マシンガンの開発、制空権の確保、レーダーなどの技術によって、操作技術力がなくとも対抗しうる方法を開発しました。
結果個々の戦闘においても徐々に米軍が有利に展開していったのですが、戦局を決定づけたものは、それらの個々の技術ではなく、戦略でした。
どのような目的に向けて、戦力をどこに集中していくのか、どのような基準で戦うのかを変えてしまったわけです。
ゲームのルールが変わってしまった時、昔のルールで戦おうとする日本軍が勝利し得ないのは当然の結末。
同じ事は現在にも言えます。品質を徹底的に追求し、高品質大量生産、高機能を土俵に戦っている時に、スティーブ・ジョブズは、革新性やデザインのかっこ良さという基準を戦いに持ち込み、それを戦いの趨勢を決める主要因にしてしまったがために、日本勢はあらゆる面で後手後手にまわり、結果として今まで市場リーダであった日本の各メーカの現在は惨憺たる物になってしまいました。
もう一つは、第2次世界大戦において決定的な差になったのは、組織のあり方でした。組織は常に活性化されていないと、精神論や過去の成功体験だけがはびこることになり、それは組織の衰退につながります。
リスク管理を疎かにし、リスクに対する危惧を封殺するような組織風土が出来上がると、結果としてその組織は敗北への道をたどることになります。
本書の原典になった「失敗の本質」も読んでいましたが、さすがに「超入門」というだけあって、非常にわかりやすい解説が有りがたかったです。
ただ、それぞれの戦闘の詳細については本書ではほとんど説明がされておらず、結論だけを展開しているため、その結論を導き出した事実を検証するには、やはり、「失敗の本質」の本質は読んでおいたほうがいいのではないかと思います。
■要約
●課題
かつて出版された名著「失敗の本質」。これは現代のビジネス社会でも意味のあるものである。しかしながら、過去の戦争において、その共通要因を導いていることと、内容が難しいため、ビジネスマンには読みにくいものであるかもしれない。
これを解説するとともに、最近のビジネス上の事例と照らしあわせて、日本人像が70年前と変わらず、問題を含んだままであることを示す。これによって、日本という国が再び世界のリーダになっていくことを願うものである。
●解決策
要点は7つに要約される
・戦略性
・思考方法
・イノベーション
・型の伝承
・組織運営
・リーダーシップ
・日本的メンタリティ
これらを理解することで、次なる飛躍につなげて欲しいと思う。
●目次
0.「日本は「最大の失敗」から本当に学んだのか」
1.「なぜ「戦略」が曖昧なのか」
2.「なぜ「日本的思考」は変化に対応できないのか」
3.「なぜ「イノベーション」が生まれないのか」
4.「なぜ「型の伝統」を優先してしまうのか」
5.「なぜ「現場」を上手に活用できないのか」
6.「なぜ「真のリーダーシップ」が存在しないのか」
7.「なぜ「集団の空気」に支配されるのか」
●キーワード・キーフレーズ
戦略とは、いかに「目標達成につながる勝利」を選ぶかを考えること。日本人は戦略と戦術を混同しやすいが、戦術で勝利しても、最終的な勝利には結び付かない。
勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略である。性能面や価格で一時的に勝利しても、より有利な指標が現れれば最終的な勝利にはつながらない。
「体験的学習」で一時的に勝利しても、成功要因を把握できないと、長期的には必ず敗北する。指標を理解していない勝利は継続できない。
体験的学習や偶然による指標発見は、いずれ新しい指標(戦略)に敗れる。勝利体験の再現をするだけでなく、さらに有効な指標を見つけることが大切。競合と同じ指標を追いかけても、いずれ敗北する。
日本は一つのアイデアを洗練させていく練磨の文化。しかし、閉塞感を打破するためには、ゲームのルールを変えるような、劇的な変化を起こす必要がある。
既存の枠組みを超えて「達人の努力を無効にする」革新型の組織は、「人」「技術」「技術の運用」の三つの創造的破壊により、ゲームのルールを根底から変えてしまう。
ダブル・ループ学習で疑問符をフィードバックする仕組みを持つ。「部下が努力しないからダメだ」と叱る前に間題の全体像をリーダーや組織が正確に理解しているか、再確認が必要である。
イノべーションとは、支配的な指標を差し替えられる「新しい指標」で戦うことである。同じ指標を追いかけるだけではいつか敗北する。家電の「単純な高性能・高価格」はすでに世界市場の有効指標ではなくなった。
日本人は体験的学習から過去いくつものイノべーションを成し遂げたが、計画的に設計されたイノべーションを創造するためには、既存の指標を見抜き、それを無効化する新しい指棟をダブル・ループ学習で見出す必要がある。
イノべーションは既存の戦略を破壊するために生み出されており、効果を失った指標を追い続けることは、他社のイノべーションの餌食となることを意味する。高性能とイノべーションは偶然重なることもあるが、本来は別の存在である。
日本軍と米軍の強みの違いが、大東亜戦争の推移と勝敗を決定した。「型の伝承」のみを行う日本の組織が「勝利の本質」を伝承できていないことで、強みを劣化・矯小化させて次世代に伝えている。
戦略を「以前の成功体験をコピー−拡大生産すること」であると誤認すれば、環境変化に対応できない精神状態に陥る。「型のみを伝承」することで、本来必要な勝利への変化を全否定する歪んだ集団になってしまう。常に「勝利の本質」を間い続けられる集団を目指すべき。
一人の個人が行うイノべーションでさえも、組織の意識構造によって生み出されるか、潰されるかが左右される。「型の伝承」から離れ、「勝利の本質」を伝承する組織になることで初めて、所属するすべての人間が変化への勝利に邁進できる集団となる。
あなたが「知らない」という理由だけで、現場にある能力を蔑視してはいけない。優れた点を現場に見つけたら自主性・独立性を尊重し、最大・最高の成果を挙げさせる。
米軍は作戦立案をする中央の作戦部員が、現場感覚と最前線の緊張感を常に失うことなく侵攻に週進できた。現場の体験、情報を確実に中央にフィードバックし、目標達成の精度と速度をさらに高めていく仕組みをつくることが重要である。
厳しい課題に直面していたら、「お飾り人事」を徹底排除し、課題と配置人材の最適化を図ること。能力のない人物を社内の要職に放置すれば、競合企業を有利にさせる以外の効能はない。
組織の階層を伝ってトップに届く情報は、フィルタリングされ担当者の恋意的な脚色、都合のいい部分などが強調されていることが多い。間題意識の強さから、優れたアンテナを持つトップは、激戦地(利益の最前線)を常に自らの目と耳で確認すべき。
愚かなリーダーは「自分が認識できる限界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは、組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用する。
「間違った勝利の条件」を組織に強要するリーダーは集団に混乱を招き、惨めな敗北を誘発させているだけである。求める勝利を得るためには、「正しい勝利の条件。としての因果関係に、繊細かつ最大限の注意を払うべきである。
「居心地の良さ」とは正反対の、成果を獲得するための緊張感、使命感、危機感を維持できる「不均衡を生み出す」組織が生き残る。指揮をとる人間には「見たくない間題を解決する覚悟の強さ」が何より要求される。
「空気」とは体験的学習による連想イメージを使い、合理的な議論を行わせずに、間題の全体像を一つの正論から染め上げてしまう効果を持つ。議論の「影響比率」を明確にし、意図的な「空気の醸成」が導く誤認を打ち破る知恵を身につけるべき。
情報や正しい警告を受け入れなくとも、間題自体は消えることはない。グループ・シンクやサンク・コストの心理的罵にどれだけ早く気づき、方向転換できるかが組織の命運を決める。
リスクは「目を背けるもの J でも「隠す」ものでもなく、周知させることで具体的に管理されるべきもの。ビジネスでは、リスクを「かわす」のではなく、徹底して管理しなければ、存続していくこと自体が難しくなる。
■■キーポイント
★P146−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
海軍軍人たちは、自分たちの知らなかった技術・兵器であるレーダーの重要性を、ほとんど理解することがなかったようです。
・電波を出して敵を見つけて、その敵を攻撃するなんてことは起こり得ない
・ほとんどの軍人はレーダーの発想を「バカげた戦い方である」と考えていた
・製作したレーダーに対して「こんなものは兵器として使えない」と難癖をつける
・艦政本部の兵器管掌をする責任者まで「レーダーなんていらない」という始末
あげくの果てに、研究所のスタッフが試作晶を戦艦に設置しようしても、電探(電波探かんざ L 信儀ーレーダー)の設置場所をもらえない。「こんな答みたいなもの、艦橋につけるわけにはいかない」と、アンテナのスペース確保を拒否される。
鈴木博毅(著) 『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』
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★P175−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「勝つ側は必要な行動を行い、負けた側はその理由を述べるだけ」という言葉があります。
できない理由を上手に説明しても、会社が勝てるようにならないのは、まさに警旬の指摘する通りです。
不適切な人事の放遺は、組織全体の大敗北につながる危険性がある一方、正しい人事は組織を飛躍させる最強の武器にもなるのです。
鈴木博毅(著) 『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』
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このフレーズを読んで思い出したのですが、
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
という言葉がありました。剣の達人、松浦静山の言葉らしい。松浦静山は明治天皇の曾祖父にあたる人です。
■参考図書 『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』
立ち読み可 | なぜ、日本は同じ過ちを繰り返すのか?今注目される組織論の名著を、若手戦略コンサルタントが23のポイントからダイジェストで読む。戦略性・思考法・イノベーション・型の継承・現場活用・リーダーシップ・メンタリティ...今日の閉塞感に横たわる、日本的組織の負の構造を乗り越えるヒント。 |
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立ち読み可 | ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦と第二次世界大戦前後の日本の主要な失敗策を通じ日本軍の失敗の原因を追究すると同時に、歴史研究と組織論を組み合わせたノモンハン事件・太平洋戦争の学際的研究書として出版されたが、リーダーシップ、コミュニケーション、フロネシスの研究所として、ビジネスにおけるガイドとして非常に有用な一冊。 大前提として「大東亜戦争は客観的に見て、最初から勝てない戦争」であったとする。 それでも各作戦においてはもっと良い勝ち方、負け方があるのではないか、というのが著者等の考え方である。 各作戦は失敗の連続であったが、それは日本軍の組織特性によるのではないかと考えた。 戦史研究(事例研究)を中心とする防衛大学校研究者と、野中郁次郎などの組織論研究者(帰納法の思考に重点を置く)との、両者の共同研究によって生まれた。 結論で、日本軍は環境に過度に適応し、官僚的組織原理と属人ネットワークで行動し、学習棄却(かつて学んだ知識を捨てた上での学び直し)を通しての自己革新と軍事的合理性の追求が出来なかったとした。 |
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●本書を引用した記事
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