認知心理学の用語で「スキーマ」というものがあります。これは情報を認知するときに使う思考の枠組みのことだそうです。
もうすこし砕けた表現を出言うと「スキーマ(schema)とは人の過去の経験から生まれた知識のまとまりのこと」。
人は外界からの情報を処理するためにこれを使って予測対応しようとするらしいです。外界から何かの刺激があった時に、次は何が起きるかを過去の経験に基づいて、それを予測しているそうです。
たとえば、木の足が4つあり、その上に平らな木が載せてある物をテーブルと認識するか、椅子と認識するかはその人が持っているスキーマによるのだそうです。
そういえば、4本足で歩いている動物を見て、犬を猫と見間違うことはありませんよね。どこをどう認識して犬だと思っているのでしょうか?
不思議ですね。
■速読術や記憶術の原理
どうも速読術や記憶術はこれをうまく利用しているようなのです。
一つの例を挙げると、マンダラートやマインドマップといった図解手法。
これらはかならず中心部から図解を始めますね。
これも不思議に記憶に残りやすい。これは、もしかしたら人間の図形の認識について「中心と周辺スキーマ」のようなものがあって、中心部に注意を集中したら周辺部が自動的に認識されるしくみになっているのではないだろうかと思ったりします。
これらの方法も、そのようなスキーマを利用するために記憶に残りやすいのではないでしょうか。
しかし、具体的な読書になると、このスキーマが逆に働くことがあります。
スキーマを逆の言い方をすれば、「知らないことは認識できない」ということなので、自分の知らない、あるいは充分に理解できていない分野の本を読んでも、何を言っているのかさっぱりわからないわけです。
■スキーマ読書術
ということで、私が勝手に「スキーマ読書術」と呼んでいる方法を3つ紹介します。
これは私が勝手にそう呼んでいるだけで、世の中一般の言葉ではないですのでご注意を。
その1: 橋頭堡作戦
その2: 他力本願作戦
その3: オレは著者だ文句あるか作戦
ネーミングセンスはちょっとおいておいて、中身で勝負。
■スキーマ読書術:その1 橋頭堡作戦
自分のスキーマを利用して、読書をする「スキーマ読書術:橋頭堡作戦」を紹介します。
まず、目次をざっと眺めます。
目次の中で自分が「それなりに知っているつもり」という単語や見出しを拾い出します。
例えば、この記事の読者の方なら、「時間管理」「仕事術」「出世術」などの単語はお手のものでしょう。
で、その単語が出てきた章や節だけを読んでみるのです。他のところは気にする必要はありません。
そうすると、前後関係が微妙にわからないので、「なんでこんな話になるんだ?」「この結論は何なのだろう?」のような疑問が持ち上がります。
そうしたら、その説明や結論が書かれている章をパラパラめくって探すわけです。
そしてその部分を読む。
またそこで疑問が出たら、その疑問に関して書かれている部分を探して読む。
要するに、いまわかっていることを橋頭堡にして、そこから本の中に、あっちに飛び、こっちに移って読んでいくわけです。
そうするとなんだかんだ言って、本の7割くらいは読むことになります。
あっちこっち探すので、ほとんどすべてのページは簡単には見ていますし、場所によっては何度も読んだはずです。
気がつくと、本の内容はある程度は分かるようになっていて、新たなスキーマが構成されていくという事になります。
そうすると、次に同じような分野の本を読んでも、前の本で読んだ内容がスキーマとなって読みやすくなります。
ただ、ある程度その分野に正しいスキーマを形成するためには、関連図書を10冊や20冊は読まないとできないみたいです。
ちなみに、私が投資関連を勉強し始めたときは、今数えてみると関連図書含めて50冊ありました…。読書記録を残さずに、ただ「読んだだけ」も含めると100冊弱。
さすがにこのくらい読めば、ななめ読みでもだいたい趣旨は理解できるようになるみたいですね。
■スキーマ読書術:その2 他力本願作戦
別の方法として、本を読む前に、その本の要約を読んじゃいます。
要約はなるべく短い方がいいです。
わたしはよく
・ビジネスブックマラソン
・ブクペ
・ブックビネガー
・ブクログ
・ihayato.書店
・404BlogNotFound
・新刊JP
・エンジニアがビジネス書を斬る!
・ビジネス書の杜
を利用します(私が時々書いている書評も上記サイトほどのデータ量はないですが、誰かの役に立つと嬉しいですが…)。
こういったサイトで、本の要約を読んでおき、「あぁそういうことが書いてあるのか」と思いながら読みます。
そうすると、それがスキーマになって、書いてある内容がわかるようになります。
ただ、これは、その要約を書いた人が、(無意識か意図してかはわかりませんが)要約に書かなかったことは、同じようにそれがスキーマになってしまいますので、本当にほんの筆者が言いたかったことを見逃す危険もあります。
そうすると、自分がいま課題だと思っていて、その解を知りたくて本を読んでいるのに、それを見落とすかもしれないというのは注意した方がいいです。
私はこのために、要約文が自分の興味をそそるものでなければ、その本自体を読みません。
逆に言えば、ネットで紹介されている要約が自分のアンテナに引っかかるものがあるとすれば、その要約文を使って(スキーマにして)、本を読むことは短時間に自分の求めている何かにたどり着く可能性が高くなります。
■スキーマ読書術:その3 オレは著者だ文句あるか作戦
これは
IDEA HACKS!2.0
に書いてあった方法ですので、ちょっとそのままを引用します。
★――――――――――――――――――――――――――
最初の10ページで著者になりきるのです。本の内容を受け取るのではなく、本を書いている著者の思考そのものになりきるようにするのです。そうすることで、単なる情報ではなく、スキーマまでもキャッチすることができます。
このとき、著者になりきる作法があります。あえて速読をせずに、著者の文章のスピードに歩調を合わせて読むのです。そして、「なるほど〜」と相槌を打ち、心の中の「いいね!」ボタンを押しながら読むのです。この段階ではまだ、疑問を挟んだりしてはいけません。まずは批判する気持ちは抑えて、著者が百パーセント正しいという前提をおいて、素直に受け人れます。
そして10ページ読んだら、そこで「お付き合い」するかどうかを決めます。そこで、「この著者っていいなー」と心の底から思うものだけ、じっくり読み進める。スキーマを増やす読書というのは、こうした著者とのお付き合いなのです。
:
また、ときには自分とは意見の違う本を読むことも大切です。その場合もまた、著者になりきって、どうしてそうした自分とは違う主張になるのか、その背景を感じ取りながら読むほうが、新しいスキーマの獲得にはプラスです。
――――――――――――――――――――――――――★
同じ趣旨のことが、苫米地英人氏の著書にもありました。
クロックサイクルの速め方 ~脳が2?32倍速になる特殊音源トレーニングCD付~
★――――――――――――――――――――――――――
したがって、本を読むときは、自我を消して読むことが、新しい知識を吸収する唯一最大の効果的方法ということができます。理論としては、きわめて簡単ですが、じつはこれほど実行が難しいこともありません。なぜなら、自我を消すというのは、悟った人にしかできない芸当だからです。要するに、仏教の悟りを開いたお釈迦様だけに可能な方法ということです。
現実間題として、ではどうすればいいか。私が読書するときに実践しているのは、「著者になりきって読む」という方法です。自我をいっさい消すことはできないものの、著者になりきった気持ちになり、自分とは異なる即席の人格をまとうことによって、自我からいったん離れるわけです。
演劇をやっている役者さんが、役になりきって演技をするために、一時的に役の人生を身にまとうのと同じだといえるでしよう。
これは、自我を消して読むことと、自我で読むことの間をとった、いわば折衷案です。あらゆる著者は、悟った人ではありませんし、 100%なりきらなければならないということもありませんから、これはわりと簡単にできることです。
私がいつも実践しているやり力は、本を読むときは最初に著者の略歴を読みます。当然のことですが、そこには何年に生まれて、どのようなキャリアで、いま何をやっている人なのかということが載っています。そして、この人はきっとこういう人だろうなと人物像をイメージし、その人になりきって読み始めるわけです。
:
(中略)
さらに、本に著者近影が載っているときや、著者の姿をテレビなどで見たことがあるというときは、その姿かたちを真似します。できるかぎり、著者と同じ格好をして読むのです。
――――――――――――――――――――――――――★
と書いてあります。
要するに、自分がこの本の作者であり、すでにこの本に書いていることは、(自分が書いたので当然ですが)人に教えられるくらい知っていると強く思いながら、読み返すわけです。
複数の著者が期せずして同じ事を言うということは、このやり方は案外正鵠を射ているかもしれませんよ。
なかなか、苫米地氏の境地にまでは至りませんが。
■本日の参考図書
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