ちょっとビジネス書といえるかどうか微妙ですが、個人的にとっても面白かった本をご紹介します。
アルフレッド・D・チャンドラーが『
組織は戦略に従う』を発表したのは今から半世紀近く前ですが、これは未だに真理として使われることが多いようです。
このほか、「戦略は組織に従う」とかいろいろな派生バージョンがあるようで、この本も「ビジネス書」の分類で、マネジメントの一種としての技術開発についてだと思って読んだら、意外や意外。こ難しい理屈抜きに楽しめた一冊です。
『
技術は戦略をくつがえす』
ほとんど「トリビア」ものです。
個人的には、こういうトリビアものが大好きです。一気に読んでしまって、「いや〜。楽しい時間が持てました」的に面白かったので、ちょっと本ブログの主旨には合わないところも多いですが、ご紹介。
■概要(ちょっとつまみ食い)
・技術は、既存の戦略をくつがえす力を持っている・戦略は、非対称性を利用する・潜水艦は、見えない水中から水上の船を攻撃できるという非対称性を生む兵器。そして、潜水艦が使われた最初の戦争は、アメリカ南北戦争。・暗号の起源は古く、古代ギリシャ時代まで遡る。紀元前480年にペルシア艦隊とギリシャ艦隊の間で行われた「サラミスの海戦」 ギリシャ側が勝利できたのは、「秘密の書記法」で敵に知られないよう情報を伝えられたから
・ドイツ陸軍は、戦車を単に移動できる砲台とは考えませんでした。ドイツ戦車の特徴は、速度が速く、全車両に無線機を装備しており、組織的な戦いを可能とした点・より遠くを見渡すためには高いところに登る。 19世紀以前の戦いでも、勝利の鍵は、高い場所を敵に先んじて手に入れることだった。
高地をいち早く占領し、より多くの情報を得ることで戦いを有利に展開することが、戦略の基本だった。
19世紀に入り、その戦略を無効化する発明が登場した。それは、「気球」。
・魚雷は水中を進む。これを阻むには、水中に対魚雷網を構築すれば可能だった。 これに対して、水面を跳ねるように移動する爆弾「反跳爆弾」が考案されて、より遠くから投下でき、魚雷防御網を飛び越えて脆弱な喫水線下で爆発させることが可能になった
・既存技術の新しい組み合わせや新しい使いみちを考案することで、既存の戦略をくつがえすことができる■技術に仕事も従うか?
「組織は戦略に従う」ように「仕事も戦略に従う」のかもしれません。
そして、「仕事は技術にも従う」と思うのはサラリーマン人生でもいろんな仕事を経験したからかもしれません。
たとえば、コンピュータの黎明期には、仕事はコンピュータに打ち込むことでした。それが、いつものまにか、まうすをにぎりしめることになり、将来は、コンピュータと会話することになるかも(なりつつあるか)。
プログラムも、マシン語からアセンブラ、いまでは Java や Python に。
高級言語になったときに、「再帰呼び出し」なんて恐ろしく画期的に思えましたが…。
仕事のやり方も技術によって変わってきていますね。
知らないことがあれば、辞書や百科事典、識者にあたっていたのが、いまでは Web 検索とか。
自動車学校で一生懸命練習した車の運転も、近い将来は、「行き先を言う力」さえあれば免許は必要なくなるかもしれませんね。
本書で特に気になったのは、「
戦略は、非対称性を利用する」という部分。
ようするに、「相手より自分を有利なポジションに置くために戦略というものがある」ということですかね。
仕事のやり方も、より自分を有利な位置にもっていく(非対称性を活用する)ために、いろんな技術を組み合わせて利用する必要がある、を考える機会になりました。
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■商品説明
優れた「戦略」は、非対称性を最大限に利用することで、勝利をもたらす。 そして、非対称性を生み出す鍵は「技術」にある。
本書は、技術者としての、ふとした疑問から生まれました。その疑問とは、 「戦略を破壊するものは、何か」 というものです。
戦略に関しては、紀元前5世紀ごろに中国で成立したとされる兵法書「孫子の兵法」をはじめ、古今東西、様々な著作が存在します。近年では、戦略そのものに加え、戦略の形成過程を明らかにする取り組みもなされています。さらに、もともと軍事の概念である戦略は、ビジネスの世界にも持ち込まれ、今では、多くのビジネスパーソンや経営者を悩ませているようです。どうすれば勝てるか? 人類は、いつの時代も、普遍的な「勝利の法則」を求めているのかもしれません。 ところが、多くの歴史家が認めているように、永遠に続く勝利はなく、勝者が常にその座に居続けることはできません。栄枯盛衰、という言葉があるように、ある時代を制した勝者も、いつか、次の勝者にとって変わられるのです。永遠に有効な戦略はありません。いかに優れた戦略でも、破壊され、無力化される日が来ます。なぜでしょうか。
本書では、過去の戦争の流れを変えた著名な戦いを取り上げ、「技術」というフィルタを通して見ていきます。そこには、必ず、非対称性が潜んでいます。戦争の歴史は、幾多の戦略家や技術者が、「非対称性を追い求めてきた物語」と言えるかもしれません。本書の目的は、戦争の歴史を通じて、技術と戦略の関係を考察し、今を生きる私たちに有益な教訓を得ることです。本書が、次世代の戦略家である読者の一人一人にとって、技術への理解を深め、新しい時代の戦略を切り開くきっかけとなれば、著者として望外の喜びです。
■もくじ
序章 戦略と技術について 技術を知らなければ戦いに勝てない時代/戦略を理解する鍵は非対称性
第1章 戦略の「常識」はいつも「技術」によってくつがえされてきた 近代戦争の歴史は技術イノベーションの歴史/優れた技術がもたらす戦略的価値/戦略家が技術を学ぶべき3つの理由/戦争とビジネスのアナロジー
第2章 新技術の強みを生かし、既存戦略をくつがえす 要素技術をシステム化し、大きな成果を生む/萌芽段階の技術を見つけ、育てたものが勝つ/結論を絞らず複数案を採用、技術的な長所を生かす/競争の戦略/一見無関係に見える技術が進歩をもたらすことがある
第3章 既存技術の新たな使いみちを見つけ、既存戦略をくつがえす 新技術の開発に見切りをつけ、既存技術を活かした戦略で勝つ/身近な技術で窮地を脱する戦略を立てる/技術の戦いでは、同じ手は二度と通用しない
第4章 既存戦略をくつがえす技術を生み出した技術者と組織 適切なリードにより、研究開発を加速する/特殊な技術と、それを使いこなす高度な技能人材/トップ・マネジメントの役割/既存の組織の枠組みにとらわれてはならない
第5章 戦争が生み育てた技術の「その後」 電子情報戦技術が産んだIT産業の聖地/軍事技術を民生技術に結びつける/ミサイル技術が産んだ宇宙ロケット/暗号解読と弾道計算が発展させたコンピュータ/爆撃機の航法装置から発展したGPS
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●本書を引用した記事
リストの活用方法
「組織は戦略に従う」が「技術は戦略をくつがえす」
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時間日誌の効用
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生徒になるな、先生になれ
種を撒き散らす
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