「洞察力」「観察力」みたいなものは、スキルとしてあるプロセスで学習すれば身につくというものではありませんね。しかし、それを身につけるまでのプロセスにはいくつかのパターンがあるようです。本日は、洞察力とはどのように発揮されるのか、それを組織としてどのように育てていくのかについて考察した一冊です。
長文なので、分割しておお送りしています。
本日は第2回目。要約のパート1です。
■要約
意思決定学者たちは、いかに人のミスを減らすかという問題に取り組んできた。確かにそれは重要なことである。しかし、私たちは同時に人が多くの経験を積み、物事の本質(問題)を見抜くような意思決定ができるようにしなくてはならない。
2005 年以後、私は自分の研究のプレゼンテーションに、次ページのような新しい図をつけ加えた。そこにある「 2 つの矢印」が、私の意図することを表している。
ここでいうパフォーマンスとは、[技能」[性能」「生産性」の総合的な意味が込められている。そして、このバフォーマンスを向上させるには、私たちは 2 つのことをしなくてはならない。 1 つは、下への矢印は私たちが抑えなくてはならないものうまりミスのことである。
もう 1 つは、上への矢印は私たちが増強しなくてはならないものうまり一見えない間題を見抜く力(=洞察力)」のことである。
私たちのパフォーマンスの向上とは、実はこれら 2 つの力のバランスにかかっている。私たちは下へ伸びる、ミスを減らす方法を模索しがちである。しかし、仮にすべてのミスをなくそうとするのであれば、私たちは「見えない問題を見抜く力」を養うことができないだろう。ミスをなくすように務めるだけでは、タバコの灰を車の中に捨てるような車泥棒を捕まえられるようにはならないからである。
人は、何かするのにより良い方法を見つけると、とても興奮する生き物である。
多くの人たちが閃きを必要とするパズル間題を解く作業に時間を費やしている。それは解決策を模索し、解き方がわかるととても満足できるからである。結局、私たちは一見えない問題を見抜く力」を求めるようにできているのである。
しかし、この力はどこから生じるのであろうか?
私が話をかき集めることを始めてみても、何らかの共通するものを見つけることができなかった。そこで、いくつかの事例を調査するための小さな研究プロジニクトを始めることにした。その目的とは、さまざまな事例の中で何が共通点なのか、また、パフォーマンスを向上させる上への矢印を伸ばすためのアドバイスを見つけるためである。
ところが、さまざまな話を比較し始めると、「見えない問題を見抜く力」を最も発揮させるのは何かについて、話に登場する出来事が互いに異なるように思われた。それに、多くの要素が含まれているように見えた。そうした事実について、私はまだ意味を見いだすことができなかったのである。
■洞察力を導く5つのパターン
グレーアム・ウォーラスが 1926 年に発行した『思考の技術』に見えない問題を見抜く力がどのように働くのかの思考モデルが記されている。
『 思考の技術]における最も普遍的な貢献は、「[見えない問題を見抜く力 』 を発揮して、発見へ至るための 4 つの段階」を提示していることである。その 4 つとは、「準備」[発案」「閃き」「確証」である。この内「発案」について以下のように述べられている。
「いいアイディアとは直感のように、努力をしないで予期しない形で思い浮かぶものだ。私に関する限りは、心が疲れ切っているときや机にかじりついているときに、こうしたアイディアは決して生まれるものではない。特に晴れた日に森の丘をゆっくりと登っているときに生まれるものである」
しかしこれらの4段階は、私が集めた事例を説明するものではなかった。
消防士に、生命に関わるような決断をしなければいけないとき、どのように決断しているのかを調査した。結果は既存のモデルのどれにも適合しなかった。
私はこれを[再認主導意思決定法」と命名したが、他の研究者たちは私の研究結果を他の分野にも当てはめた。すると、軍の司令官や 111 ]田の開発管理者などの専門家が困難な局面に遭遇したとき、実に 80 パーセントの割合で直感力に依存していたことが判明したのである。こうして「現場主義的意思決定( NDM 理論)」という分野が確立したのである。 NDM 理論は、人工的に設計された課題を実験室の中で被験者に考えさせるのではなく、実際の現場でどのように人が考えるのかを研究する学問になったのである。
これまでは、しかしそれまでは、[見えない問題を見抜く力」といったような研究は、実験室の中で人 1 的に設定された課題を用いて行われてきた。そうした研究は、仮説を打ち立て、検証することを目的としている。しかし、それでは結論は導けなかった。したがって、逆に現場の起きた事実を分類・分析することで結論を得ようと試みた。
私は、このストーリーを中心に調査を進めてきた。それというのも、ストーリーは、私たちが遭遇する状況や出来事についての認識を形作る共通の方法だからである。
そういった種類のストーリーは、状況に関するあらゆる種類の詳細な事柄を構成し、「アンカー(錨)」ごとも呼べる中心となるべきいくつかの要点に支えられているのである。アンカーはかなり安定していて、他の詳細な事柄を解釈する方法を決めるのである。
これらによって5つのパターンが発見できた。
出来事のつながりから見抜く方法
偶然の一致から見抜く方法
好奇心から見抜く方法
出来事の矛盾から見抜く方法
絶望的な状況における、やけつばちな推測による方法
さらにもう一つ、どれにも分類されない方法もあるので、この後の章ではこれらの事実について説明する。
◆出来事のつながりから見抜く方法
これについては事例が多い。ターラント海戦と山本五十六がそうだし、進化論を発表したダーウィン然りである。
出来事のつながりを見抜くという方法は、私が探究していた疑問への回答のようにも思えた。それは私の事例のうちの 82 パーセントを占め、全 120 の事例のうち絡がこれに該当したからだ。また、事実についての個 々 のつながりが潜在意識レべルで 1 本の流れになってういには意識レべルでアイディアとなって表れるという、あのグラハム・ウォーラスの考えにも適合した。
ただし、「見えない問題を見抜く力」は、単に点としての出来事をつなげることだと提案し、真珠湾の奇襲攻撃を指揮した山本大将、赤ん坊が未発達で未成長であるということを覆したゴプニック、そして「進化論」を発表したダーウインの事例は、いずれも出来事のつながりを見抜いたように見えるが、私はこの「点をつなげる」という比喉を好まない。
なぜなら、私は(起きていない出来事をつなげる」ということは論じていないからである。関係のない出来事をつなげるというのは話の進行を遅くするものであるが、あらゆるアイディアを出すうえで重要な部分である。それは、どの点とどの点をつなげるかという意味である。
もし私たちが関係ない点を除き、暖味な点を明確にし、異なるように見えるが、実際は同じである点をグループ化するのならば、誰でも点と点をつなげることはできる。もしすべての残されている点が独特で、妥当な一連の点であるのならば、点をつなげる作業はより簡単になる。しかし、もし暖昧な点を残すのであれば、点をつなげるのは紛らわしくなる「点をつなげる」ということは、出来事を理解したり、アイディアが閃くということにとっては、取るに足りないものなのである。
洞察力は、前述の5つの方法が組み合わされた方法だからだ。
私は 5 つの種類のそれぞれを分析してみたのである。その方法がチャプター 2 で述べた「出来事のつながりから見抜く方法」「出来事の偶然の一致から見抜く方法」(好奇心から見抜く方法」「出来事の矛盾から見抜く方法」「絶望的な状況における、やけっばちな推測による方法]である。私たちのアイディアのほとんどが、こうした方法の混合によって生じている。出来事をつなげる方法に関する 98 の事例のうち、この方法だけによって問題解決をしたものは 45 のみであった。それ以外の 53 の事例では、出来事をつなげる方法と、 1 つかそれ以上の方法の組みム口わせによるものであった。それゆえに、私たちは[見えない問題を見抜く力」が、
出来事をつなげることで働くと単純に結論づけるのはあまりにも早すぎるのである。ミステリー物語で、あなたが 1 人目の容疑者らしき人物に遭遇したからといって、そこで推理を打ち切ってしまわないのと同じように。
◆偶然の一致から見抜く方法
出来事の偶然の一致とは、無視されるはずの出来事が同時に生じることである。ただし、それは新しい行動パターンについて早い段階で注意を促してくれるような出来事を除いてである。
出来事の偶然の一致は、私たちの理解を変え、私たちが気づくものも変え、私たちが興奮するものも変え‘そして、私たちを発見への道筋に乗せてくれるのである。出来事の偶然の一致は、私たちの行動も変える。出来事の偶然の一致を見抜く方法とは、私たちの思考パターンを壊して変えなくてはならないときに、アイディアを提供してくれるのである。
◆好奇心から見抜く方法
好奇心のことである。人がいくつかのアイディアを頭に思い浮かべるのは、 1 つの出来事がきっかけとなり、また「今、何が起きているのだろう?」と反応したくなるような観察からである。こうした好奇心をそそるような調査によって、人は素晴らしい発見をするのである。
好奇心は、偶然の一致と次の点で異なる。好奇心とは同じパターンが重複することよりも、ある 1 つの出来事や観察によって引き起こされるということである。
胃潰傷と黄熱病の事例から、いかに不備のあるデータから、本来正しいはずのアイディアでも「[誤っている」と立証されてしまう」ことが明らかなことがおわかりいただけただろう。私たちは証拠を考えることなく、偶然の一致を盲信するというバカげた立場をとるべきではない。しかし、証拠に対して盲信するべきでもない。証拠というのは、私たちが見逃している可変的な諸条件によって塗り替えられてしまうこともあり得る。
このことによって、私は吹の鍵を探ることになるのである。それは、どのようにして私たちの出来事の矛盾を見抜く力が働くのかという疑問である。
◆出来事の矛盾から見抜く方法
出来事の矛盾を見抜く力というのは、好寄心から見抜く力とは異なる。好奇心というのは、[何が起きているのだろうか?」と不思議に思わせる力のことである。それに対して、出来事の矛盾を見抜く力というのは、「それが正しいはずがない」という疑問を持たせる力のことである。
◆絶望的な状況におけるやけっぱちな推測による方法
すでに述べたように、「見えない問題を見抜く力]に関するほとんどすべての科学的研究は、心理学実験室の中で、ある目的を遂行させる途中で、被験者に何らかの障害(物)を与える。すると、何人かは状況に行き詰まり、お手上げ状態になる。そして、他の何人かは悩み、戸惑いながらも、そこから解決のための思いがけないアイディアが閃いたりもする。
「見えない問題を見抜く力」の性質を慎重に調査している心理学者にとって、「やけっばちな推測」というテーマは、物事の本質を見抜くことによる問題解決の典型とも言うべきものである。それは、心理学者たちが自分たちの実験の中で用いるパラダイムである。
なぜなら、そこには解決策があり、 1 つの正解があり、冷静沈着な分析ではなく解明のフラッシュを通して発見できるからである。これは、グレーアム・ウォーラスが(発見に至るための 4 つの段階」を考案したときに、彼の心の中で生じたある種の心理状態である。「やけっばちな推測」は、第 5 のアイディアを生み出すための方法であるが、いくつかのアイディアを結びつけたり、出来事の偶然の一致に気がついたり、好奇心や矛盾を見つけたりすることとは大きく異なる。「やけっばちな推測」には、逃げられない罠から抜け出すための方法を見つけ出すことが必要となる。
◆見えない問題を見抜くための別の方法
ミリオンセラーになったカーネマンの著作 『 ファスト&スロー―あなたの意思はどのように決まるか?』 (利井章子訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)で、カーネマンは速くて直感的な思考のシステム1と、より遅く、より批判的かつ分析的で、思慮深い思考システム 2 という2つに区別している。
認知バイアスとは思考システム 1 うまり、私たちが受ける認知上の衝動から主に生じるとする。
思考システム 2 は、必要なときにそうした衝動を抑制し、かつ修正するために監視し続ける心理的なメカニズムについて説明している。
すなわち、私は、思考システム 1 についての否定的な考え方と、創造的なアイディアや発見に対する畏艦の念や正しい認識をつり合わせることが重要であると考えている。
私たちは、上下両方の 2 つの矢印が必要で、まさに思考システム 1 と思考システム 2 の両方が必要なのである。「見えない間題を見抜く力」が発揮される思考プロセスうまり、バフォーマンスを向上させる上方への矢印は‘認知バイアスへの懸念となるミスをなくす下方への矢印とのバランスをとるのである。
私は従来の研究方法ではなく、事実を積み重ねる方法=体験談を集める方法に重きをおいた。
◆問題発見への3つのプロセス
体験談にざっと目を通したとき、私は何か奇妙なことに気がついた。
5 つのタイプの「見えない問題を見抜く力」があって、そのうちの 2 つは真逆の方向に働くということである。それらは反刻の作用をするように思われ、合成することができなかった。
「やけっばちな推測による方法」が働くとき、人は自分たちを罵に陥れるような愚かな考えを見つけ出そうとする。同時に、このような考えを[かなぐり捨てたい」と思うので、固定観念や行き詰まった状態から脱出できる。反対に「出来事の矛盾から見抜く方法」を発揮させるとき、私たちは愚かな考えに「集中する」ものである。その考えから言い逃れをしたり、かなぐり捨てる代わりに、考えを真面目に受け入れる。
ところが、「矛盾した出来事から見抜く方法]が発揮されるまでの過程は、共通したシナリオに従っているようにも思える。「ある例外的な出来事に遭遇する → それを見捨てたいという願望を捨てられずにいる → そのことを信じ、有効であると想像する → その例外が受け入れられるように私たちの一般通念を修正する」というものである。
[出来事の矛盾から見抜く方法]についての事例と「やけっばちな推測による方法」についての事例は共に、他の人には、これまで強く支持されることはなかった重要な考え方に注意を向けることになる。
ところが絶望的と思われる事例については、説得力に欠け、そのための手段を模索しようともしない。まったくの正反対である。絶望的な局面に陥っている人々は、物事を理解するのに説得力に欠ける要点を織誕する代わりに批判するのである。
絶望的なときを迎えると、我々はひっくり返すことができる仮説を積極的に探すものだ。もしその仮説をひっくり返すことができるのならば、私たちはその仮説から推察される結果を想像しようとはしない。むしろ、そうした仮説を考慮に入れないことで状況を改善しようとする。そこで、「出来事の矛盾」と「やけっばちな推論」から「見えない問題を見抜く力」を発揮される、 2 つの異なるプロセスを区別してみた。
・2 つのプ口セスは異なるモチべーションから生じる … 「悪い状況から脱したいという願望」対「世間一般の通念を考え直してみたいという願望」
・2 つのプ口セスには異なるきっかけがある・・「欠点がある仮説を探していること」対「ある矛盾に遭遇すること」
・2 つのプロセスは異なる活動に依存している・「欠陥のある仮説を他のものと取り換えること」対「不規則性を導くことになる、説得力の弱い仮説を打ち立てること」
次ページに示してある、「見えない問題を見抜く力」が作用するための 3 つのプロセスは、私が「発見への 3 つのプ口セス」と呼んでいるもので、残りの「出来事のつながりから見抜く方法」「出来事の偶然の一致から見抜く方法」「好奇心から見抜く方法」が 3 つのプロセスの中で統合されているからである。それは、図の真ん中の列のものである。
・出来事の矛盾 → 説得力のない「心のよりどころ」を元に話を構築
・出来事のつながり・偶然の一致・好奇心 → 新しい「心のよりどころ」を追加する
・やけっぱちな推測 → 説得力のない「心のよりどころ」を捨てる
これら3つの「心のよりどころ(考えの根拠)」によって、私達の理解の仕方が変わる!。すなわち
行動 ― 見る ― 感じる ― 欲求
の結果になる
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