複数のマネージャーを束ねる立場になると気がつくことがあります。それは、マネージャーによって部下の処理速度に違いが出るということです。
もちろん、部下の処理能力にもばらつきはあります。しかし、チームとしてみると、マネージャーによって、物事の処理速度に違いが出るのです。部下が入れ替わったとしてもこれは違いが出ません。つまりマネージャーの仕事のやり方(業務の振り方)に違いがあるのです。
■マネージャーの転送能力
マネージャー自身はなにかの仕事(実際の作業)をしているわけではないので、マネージャーがもつ仕事の能力というのは、処理速度に影響するわけではありません。
ちがいは、マネージャーがボールを持っている時間の違いです。
つまり、なにかの業務が発生したときに、その業務を誰に振るか、どのように処理させるのかを判断して、その作業を部下に指示します。この状態を「ボールを持っている状態」といいます。
つまり、他のチーム・部門などから何らかの業務の依頼があったとして、その依頼があった時点が、ボールを渡された状態です。
そのボールを部下に渡して(分割するなども必要ですが)作業をさせて、その結果を依頼のあった部門などに返すことがマネージャーの仕事です。
つまり、ある仕事というボールは、
1.発生部門
↓
2.マネージャ
↓
3.部下
↓
4.マネージャ
↓
5.発生部門
のように流れます。
この2と4の状態と言うのは、仕事が進んでいるわけではありません。3の状態に素早く遷移させることがマネージャーがするべきことなのですが、仕事が遅いチームのマネージャーは、2で一旦止まってしまうのです。
仕事が速いチームのマネージャーは、たとえばメールで依頼を受けた場合、そのメールを読んだらすぐに、部下に転送して作業を依頼します。逆に仕事が遅いチームのマネージャーは、メールを読んだら翌日〜翌週に部下に依頼しています。
当然、期限が変わるわけではないので、仕事が遅いチームでは、期限ギリギリになって始めて「こういう仕事がある」と言われるわけです。「そんな期限では無理!」と部下からいわれるので、マネージャーは自分で夜なべして作業するか、仕事の期限の調整という仕事が発生します。その結果、マネージャーは実務ややらなくて良い業務を抱えることになり、その他の仕事のボールを振り出すのがますます遅れます。
野球で言うところの「ボール回し」と同じです。
ボールを受け取ったらすぐに別の野手にボールを渡さなければ仕事は進みません。それを、ボールを持って縫い目を見たり、ちょっと別のことをしたりしていては、素早くボールが回るはずもありません。
そこで私は、マネージャーから部下にメールが渡るまでの時間をメトリクスとして毎月報告するようにマネージャーに言い渡しています。
仕事の発生源がメールでない場合には、その仕事をマネージャーが認識した時点を起点として部下に指示した時間を記録するようにしてもらっています。
このメトリクスを「転送時間」という名称で管理しています。
■転送時間をメトリクスすると処理能力が上がる
このようにして転送時間を毎月チェックしていると、組織としての処理能力が高まりました。
マネージャーは毎月私に、仕事が発生してから、仕事を部下にふるまでの時間を報告する必要があります。すべての部下に指示している仕事について測定するため、「素早く部下に仕事をふること」を意識するようになります。
その結果、組織全体の処理能力が上がったのです。
おまけと言ってはなんですが、マネージャーと部下のコミュニケーション頻度が上がりました。
誰に振っていいかを考えるときに、今どのくらいの仕事で忙しいかをマネージャーが把握していないと、
「この仕事お願い!」 → 「いま忙しいので無理です」
という無駄なコミュニケーションが必要になります。それを避けるためには、今どのくらいのボリュームの仕事を抱えていて、それの期限はどの程度なのか、つまりどのくらい忙しいのかを常に把握していなければ、仕事が振れないのですから当然です。
だから、毎週の進捗報告だけでなく、マネージャーはつねに部下の作業状態に気を配るようになったのです。その結果、仕事で詰まっている部下もすぐに発見できて、すぐに助け舟を出してやれるようになり、期限に間に合わないからと別部門に調整に行くという無駄な仕事も減りました(なくならないのは残念ですが)。
あなたが、もしマネージャーなら、この転送速度というメトリクスを意識してみると、あなたの仕事がスムーズに進むようになるかもしれません。
■転送速度を高めるコツ
「コツ」と書きましたが、それほど大したものではありません。
具体的に言うと、以下の様なことに気をつけるだけです。
・部下から「終わりました」と報告されたら、「じゃあ次はこれ」という仕事のストックを常に持っている
・仕事の依頼メールを受けたら、その場で「これは○○さんにやってもらう」と決めて、メールを転送する。転送が終わるまでは、次の作業をしない
・会議中に仕事が発生したら、その場で依頼メールを書き始める。
・仕事を頼む時には、口頭で頼むことを第1にする。ただし、その後、頼んだ内容をメールで送っておく(言ったことを忘れる場合があるので)
・頼めるかどうか分からなかったら電話で聞く。メールやチャットで聞かない
この程度です。特に最後の「メールやチャットで聞かない」というのは重要です。
メールやチャットではいつ返事が来るかわかりません。電話ならその場で返事がもらえます。このスピードの違いは大きいです。
もちろん、その部下がメールを読むのが仕事の場合はすぐに返事が来るでしょう。でも、メールを読むだけに会社に来ている部下になにか仕事を頼むことはできませんよね。その人はメールを読むのが仕事で、それ以外は何もしてくれないのですから。
だから、即時応答してくれる電話をするのです。
連絡がついて、部下から了承の返事がもらえるまでは、あなた(マネージャー)が、その仕事のボールを持っています。その時間を最短にするように手段を選ぶのです。